3.21.2015

あなたの息子 “SMALL TIME”



原題とまったく関係のないカタカナ邦題、「24製作陣が新たに仕掛ける」などサスペンスかと思わせるキャッチ…もうすべてがデタラメ、作品に触れる機会を奪うノイズでしかない。売るための施策であるならまだしも、作品の価値を下げてどうすんだろう。旧態依然の業界は数あれど、依然を通り越して唖然だな。

気を取り直して続けよう。予告で微妙に気になっていて、見た。内容は父と息子のちょっとしたエピソード、しかしながら、こういうニュアンスの父子ものはあまり見かけない気がする。

父は中古車のセールスマン、息子が生まれた頃は食うにも困ったが、今は友人と店を経営し、ローカルのテレビCMなども流す成功者。離婚した妻は金融マンと再婚、息子はそちらの家で暮らしていたが、高校を卒業して秋からは大学生。そんな息子がふと訪ねてきて言う。大学なんて時間のムダじゃないか、父さんの店で働きたい。

息子から人生の先輩のように慕われるのは悪い気はしないだろうが、同時に父は息子に自分が果たせなかった夢を無意識に託してしまうものだろう。戸惑いながらも息子を受け入れ、独特の商法を披露。すぐにいっぱしのセールスマンを気取りだした息子を見て戸惑いはさらに大きくなる。

ネタバレになるので以下略となるが、セールスのノウハウも面白いし、彼らを囲む人物たちもいい感じ。珠玉の、とは言わないまでも印象に残る作品だ。最後に息子は父に手紙を書く。人は金を巻き上げるだけの対象ではないこと、そして自分が何者かがわかったと。I'm your son... IMDbでも評は多くないが「こういう映画をもっと見たい」というのがあったな。同感だ。



ナッシング・バッド SMALL TIME (2014) 日本未公開
監督 ジョエル・サーノウ 
クリストファー・メローニ デヴォン・ボスティック ディーン・ノリス 
ブリジット・モイナハン 

3.14.2015

ワンカット大関 「バードマン」



オスカーを4部門ほど取ったということで、もうすぐ遅まきながら日本公開されるが、そのことに特に関心はなく、世界的にはすでに去年の話題だろう。全編ワンカットらしい、と噂されているが実はフェイク・ワンカットで、現在の技術で巧みに繋いであるようだ。そのことを罵倒する向きもあるようだが自分的には、面白い人だなゴンザレスはんは、と思う。

映画はそもそもテクノロジーの申し子だったのに、いつのまにか古典芸術のように扱っている人がいる。デジタルも3Dも気ままなフィルムメーカーなら面白がっていいはずだ。ただ「3Dって、こうだろう」などと決めつけずスコセッシのように表現拡張のアイディアとして昇華されるべきなのだろう。ゴンザレスはんがここでやったことも、最近のジェットコースター的なカメラワークでワンカットができてしまうのではないかというヒラメキ?で、たとえば日本だったら、すごい予算が投入される製作に対しそれは不謹慎だと言われるに違いないし、そもそもそのようなわけのわからない発想をする人が現れないだろう。

この無頓着な表現は、かつてバードマン役でハリウッドで名を馳せた男が、ブロードウェイで俳優としての正統な評価を得たいとあがくという物語にぴったりマッチする。表現だけがひとり歩きせず、表現に見合ったシナリオにきちんと着地させている。冒頭とエンディング間際でわざと乱してある部分を除いて、不思議な時間のパノラマ(リアルワンカットではありえない時間的非連続も連続させてしまう)は一見に値する新しい映画体験と言える。

しかし当然ながらそれだけに終わらず、やたらブリーフ姿の男たちが闊歩したり、YouTubeやtwitterとブロードウェイシアターの対比、ブロードウェイのバックステージの狭さ、この舞台にすべてを賭ける男VSレッテル貼り評論家の戦いなど、今という時代を適切に俯瞰するエピソードも楽しめる。恐らくハイブローすぎて客は入らないという気もするが、乞うご期待。



バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡) (2014) 日本公開2015.4/10
BIRDMAN : or (The Unexpected Virtue of Ignorance) 公式サイト
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ 
マイケル・キートン エドワード・ノートン エマ・ストーン ナオミ・ワッツ 
アンドレア・ライズブロー ザック・ガリフィナーキス 

3.09.2015

デーモンPOV “Grace”



サブ邦題のせいで、どうでもよさそうなエロホラーに思っていたら、意外に意欲的な作品。冒頭の設定紹介が終わると一転して一人称のカメラとなり、しかもそれは彼女に取り憑いた悪魔の視点なのだ。写るのは悪魔=彼女が見る世界で、自分自身は脚や手、そして鏡に映る姿だけ。これが新鮮な効果を上げている。そのまま悪魔祓いを取り行われる立場が体験できる。

父親不明のまま母は、グレースを産むと同時にあの世へ。そして18年後、グレースは祖母のもとを飛び出して大学生となり寮生活。このあたりからは完全な一人称。しかし大学生活をエンジョイできるようになる前に祖母に連れ戻され、教会と家を行き来するだけの厳格な日々に逆戻り。やがてグレースは母の部屋で半分に破られた写真を発見、そこに写る母の肩に回された手は神父のものだった。グレースの中に眠っていたものはしだいに表に現れ、恐らくは父であろう神父は彼女を救うことより口封じを選ぶ。一見の価値あり。


グレース 呪われた純潔 Grace (2014アメリカ・カナダ) 日本未公開
監督 ジェフ・チャン 
アレクシア・ファスト アレクシス・ナップ ジョエル・デビッド・ムーア 

3.08.2015

ボケ&もっとボケ Dumb and Dumber To



20年の歳月を経ての続編ということだそうで、TwoをToと書くおバカさはカワイイ。(クレジット後にFourをForと書くギャグもあるので最後まで見よう)ジム・キャリーは好きなのになぜか前作は見ていない。あのオカッパがあまりにキモかったせいだと思うが、今回も同じヘアスタイルで、老けたジムの顔にこのアタマが乗っかるとキモさにはさらに拍車がかかったように思う。

ギャグはどうかというと面白くなくはないし、量も質も悪くないと思うが、ドッカーンとは来ない。そんなおバカ二人を見ながら考察してみたのだが、もしここにツッコミがあればトータルテンボスくらいに面白いに違いないと。あらためて漫才はすごいなと思うと同時に、向こうはピン芸人であるスタンドアップコメディアンがメインストリームであることにも関係するかもしれないと分析。つまりアメリカの笑いはボケっぱなしではないのか。だからドッカーンと来ない?見る側が心のなかでツっこむのかもしれないが、ある意味バカを指さして笑うようなプリミティブな笑いとも言える。

もしかして漫才のスタイルであるボケとツッコミを海外に持って行くと受けるかもしれない。英語やスペイン語で演じる漫才は、アニメに継ぐクールジャパン・カルチャーとなるかもしれない。これは誰も思いついてないんじゃないかと調べてみたら、少しあった。ここにもLA LIVE ちょっと香港映画を見ている気がしたり、ツッコミが足りない気もするが動向を見守りたい。

パンチライン(1988)ではライバルだったスタンドアップコメディアンの二人が、コンビを組んで漫才をやるというようなストーリーの映画ができないとも限らない。本作から逸れてしまったがぜひForまで見てみたい。


帰ってきたMr.ダマー バカMAX!Dumb and Dumber To (2014) 日本公開未定
監督 ファレリー兄弟 
ジム・キャリー ジェフ・ダニエルズ レイチェル・メルヴィン 
パトリシア・フレンチ ローリー・ホールデン ロブ・リグル スティーヴ・トム