2.19.2014

棒立ちの似合う女の子 “THE BOOK THIEF”



こういう、 いかにも良作といった作品が来たら、 反対に身構えてしまう性分ではある。 しかしこれは、 そんなアマノジャク野郎も素直に入って行ける映画だった。 まず、 さまざまな苦難を生き抜くリーゼル役のソフィー・ネリッセのキョトンとした顔と棒立ちがキュート。 少年ルディとのツーショットは 「小さな恋のメロディ」 を思い出させる何かがあったし、 ジェフリー・ラッシュのパパやエミリー・ワトソンのママとみんなそれぞれにいい感じで、 ベストセラー原作の映画化ながら、 肩の力の抜けた こなれた演出という気がした。

こうしたタイプの映画を語る力量は持ち合わせていないし、 あまり語る必要もなく見てもらえばいいと思うのだが、 邦題に付け加わっている 「やさしい」 という表現だけが気に障る。 何が 'やさしい' のだろう。 そんな形容詞ひとことで済ませられる内容ではないはずだし、 仮に 'やさし' かったとしても、 題名にそのような限定を加えて、 見る前から人にやさしいものであるという刷り込みをする意図は何だろう。 世界で最も遅く公開する戦略とともに、 日本の映画配給の永遠の謎だ。 いや謎などといいものではなく、 '偏向' ローカライズのベクトルは周知の伝統だが、 ほとんどが思い込みで成立していることに気づいて転換を図ってもらいたいものだ。 そのまま 「本泥棒」 でいいじゃない。 'やさしい' だの、 '幸せの' だの陳腐な接頭語をつけたがるのは、 すでに病のようだ。 作品まで陳腐になるし、 会話のなかでタイトルを挙げるのにも ひっかかりを覚える。 '小さな' も '恋の' も、 そもそも いらなかった余計なおせっかいなのだ。

ささやかな抵抗として文字を小さくしておくので、 乞うご期待^ ^ 




やさしい本泥棒 THE BOOK THIEF (2013アメリカ・ドイツ)
監督 ブライアン・パーシバル  日本公開2014年6月予定 公式サイト
原作 マークース・ズーサック 
ジェフリー・ラッシュ エミリー・ワトソン ソフィー・ネリッセ 
ニコ・リールシュ ベン・シュネッツァー 

2.16.2014

音楽は宇宙を救う THE HISTORY OF FUTURE FOLK



詩情あふれるヘンテコ映画、 登場。 "ホンドー" とかいう星から地球侵略にやってきた宇宙人が、 地球で初めて音楽というものに出会い、 地球を愛し、 共生の道を模索するという不思議なプロット。 トゥリアス将軍はこの星でさらにもう一つの美しいものに魅了される。 それは女という、 ごもっともな着眼点ながら、 妙に納得。

ユルい雰囲気で始まり、 話は都合よく展開する 'ほのぼの'ムービーなのに、 音楽と女に対してだけは特別な緊張感があったりするヘンなテイスト。 二人のホンドー星人のキャラも絶妙と言えば絶妙。 トゥリアス将軍は娘を寝かす前にホンドー星の物語を聞かせ、 しかしこれはあくまでフィクションだよ、 というオチで娘を 'くすぐる' が、 やがて真実を話すときが来る。

音楽に出会ったばかりにしては楽器の習得が速く、 トゥリアス将軍とマイティ・ケヴィンは今夜もライブハウスで歌う。 それはロックというよりカントリーなのだが、 ファンはしだいに増えていく。 この状況を裏切りと見たホンドー星は刺客を送り込むが‥。

過剰な期待は禁物かもしれないものの、 独創的なセンスと 'すべては上手くいく' 的ハッピーさに満ちたチャーミングな映画とは言える。 日本公開は現時点で噂も聞かないが、 乞うご期待^ ^




THE HISTORY OF FUTURE FOLK (2012) 日本公開未定
監督 ジョン・ミッチェル+ジェレミー・キップ・ウォーカー 
ニルス・ドーレア ジェイ・クレイツ 
ジュリー・アン・エメリー エイプリル・L・エルナンデス 
The History of Future Folk海外版DVD

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愛あるIRA “NO SAINTS FOR SINNERS”



予算がないせいだろうが、 俳優も地味、 ポスターも地味。 IMDbでもそれほど評価は高くなく、 というか二人ぐらいしかコメントしてないし、 邦題はいつものセンスに輪をかけたようにテキトーだが、 何を間違ったかチラッと見た予告が気になってしまい見た。

いわゆるクライムストーリーでしかないものの、 元IRAの男が目的をなくして取り立て屋になっているというツイストは効いている気がする。 最初は地味に思えたこの男のスーパーエージェント張りの活躍がポイントとなるのは意外ではあったが、 ストイックで真面目なヒーローぶりは楽しめたし、 総合点は決して悪くないように思う。 監督は次作 Renee (2012) (これまた聞いたことないが^ ^) で監督賞なども取っており、 腕はあるが恵まれない状況にある人のようだ。

IRAの男は潜伏先のLAで、 取引相手から‘どこの人? オーストラリアあたり?’と聞かれ、 カナダと答える。 (もちろん実際はアイルランドだが) 監督はカナダ出身ということで、 このあたりに微妙な自虐を感じるのではあるが、 別の取引相手の中国人が日本の曲で踊っていたりと‥ まあ何でもいいか。 もう一皮むければ注目に値する監督になりそうな気もするフランコフスキー、 とりあえずクライムストーリーが好きな人はレンタルリストに入れておいても損はないのでは。



ダウンフォール NO SAINTS FOR SINNERS (2011) 日本未公開
監督 ネイサン・フランコフスキー 
リック・クロフォード 

2.15.2014

モノクロの中のスマホ 「ストラッター」



クラウドファンディングで製作費を募り、 2万ドルでできたらしい。 初期のジム・ジャームッシュを思わせるモノクロ。 冒頭、 チャップリン風のレトロに走り、 その後はやはり、 けだるい展開。 無名の俳優が地味ながらリアルな雰囲気を醸し出している。 表面的な雰囲気でなく、 ある種ドキュメンタリーのように登場人物に存在感がある。

監督は若いのかと思っていたら、 主人公たちの親くらいの世代。 スマホも出てくるのでほぼ現在を切り取ってはいるものの、 そこに描かれたメンタリティというか心意気は、 監督たちの若い頃の時間がそのまま閉じ込められているように思う。 キャラの違いを超えてリスペクトしあったり、 自信があるようでいてすぐに頓挫し、 目標があるようで退屈な感じは、 懐かしいような、 あまり見たくないような、 独特な違和感にあふれ、 それでもやはり見てしまう。

そして結局はどこへも行けず、 挫折感でも孤独感でもなく、 ただ、 けだるく時を過ごして、 いつのまにか歳を取ってしまったな、 というような苦味だけが残る。 あの頃、 永遠にあるかに思えた時間は風船の空気が抜けるようにどこかへ消え、 無自覚に人生を浪費したツケが回ってきても、 どうせ死ねばチャラだろと開き直る以外に道もなく、 それより大事なことがあるじゃないかとギターを爪弾くが実際にのところこれといった確信はない。 そんなロックなオッサン、 オバサンが作った映画であることは間違いない。

そのオッサン、 オバサンと大差のないであろう自分が見て、 YouTubeでふと大昔の曲を検索してみるときと同様の気分になりはしたが、 製作前にこのクラウドファンディングを知っていたとして、 幾ばくかの投資をしてこの映画が見たいと思ったかどうかは定かではない。 いやむしろ、 見たくなかった^ ^ もっとジャスト、 自分の年代の青春が描かれるとしても、 そんなものにムダ金を使いたくない^ ^ 2万ドルの一部を出資した人は果たして満足したのだろうか。 IMDbにはレビューの一つも書かれておらず、 オフィシャルフェイスブックからも熱気は感じられない。 奇しくもクラウドファンディングによる映画製作の未来に暗雲を立ち込めさせる結果となっているように思えるのは気のせいだろうか^ ^

・・と、 かなり痛烈に皮肉ってしまったが、 本当のところは嫌いではなかったりするのが、 自分でもどうかなと。 。



ストラッター STRUTTER (2012) 日本公開2013.9月 公式サイト
監督 アリソン・アンダース+カート・ヴォス  象のロケット
フランネリー・ランスフォード ダンテ・ホワイト・アリアーノ 
エリース・ホランダー クレイグ・スターク 

2.14.2014

そのヒゲ、ダンブルドアほど似合ってないよ
The Secret Life of Walter Mitty



ギャハハと面白いわけではないが、 毒のこもったスティラー流の笑いで、 今回はヒゲ面のエグゼクティブがターゲットになっている。 雑誌LIFEが廃刊する際のエピソードを原作に、 笑いあり冒険あり、 恋あり。 突然、 妄想シーンに変わるなどのギミックを取り入れながら、 全体には淡々とした作品になっていて悪くない。

スティラーはデビッド・ボウイが好きなのだろうか (確か 「ズーランダー」 でもボウイが出てきた) ヒゲの役員から“トム大佐”と呼ばれたミティは、 思いを寄せる彼女が生ギターで歌う“Space Oddity”に励まされる。

LIFE誌の最後の表紙となるはずの失われた25番ボジを求めて、 アイスランドからアフガニスタンまで遥々旅をして帰ったNYでの人員整理と恋の行方やいかに・・ と、 それ以上書けることもないが、 3月に世界最遅公開が決まったということで、奇しくもいろいろと見つめ直す時期、 グッドタイミングな作品ではある。 乞うご期待。



LIFE! The Secret Life of Walter Mitty (2013) 日本公開2014.3/19
監督・主演 ベン・スティラー  公式サイト・予告 象のロケット
原作 ジェームズ・サーバー 
クリステン・ウィグ アダム・スコット キャスリン・ハーン 
シャーリー・マクレーン ショーン・ペン 

2.03.2014

もう一度女と踊り、牛に乗りたい 「ダラス・バイヤーズクラブ」



最近、 人は1000才まで生きられるとか、 STAP細胞など、 強引な希望に満ちた話が楽しいが、 1985年に端を発する実話をもとにしたこの映画では、 HIV感染者にはAZTというFDA認可の副作用の強いわりに効果のない薬か死かの選択肢しかなかった。 AZTというのは製薬会社とFDAの癒着のもとで推奨されていたが、 実はウィルス退治に固執しなければ、 免疫力を高めて発症を防ぐ対処法もあった。 しかしそのための薬はFDAに認可されていないので使えないというのが実情だった。 マコノヒーは今回、 この役作りに際して体重を何キロ落としたのだろう、 別人かと見まがう姿になって、 こうした医療の権益のしくみと戦う。

ある日HIVポジティブを告知されたロンは、 根っからの女好きでもあり我が耳を疑ったが、 余命30日を宣告される。 ワラにもすがる思いでメキシコのとある医者を尋ねると、 AZTを絶って、 ペプチドTという安全な薬とビタミン剤で免疫力を高めれば発症は抑えられるのだという。 そうして30日はおろか、 何年も生きることとなったロンだが、 同じ境遇の者を助けたいと、 このペプチドTを未認可販売する。 やがて問題となり薬は没収され、 裁判。 そこで勝ち取ったものは決して大勝利とは言えないまでも、 小さな生きる権利。

この過程で、 かつては毛嫌いしていた性同一性障害の男をビジネスパートナーにし、 理解のある女医や境遇をともにするさまざまな人たちに支えられると同時に貢献し、 もう一度乗りたいと語った牛のロデオ出場を実現させる。 80年代の話でもあり、 いまさら医療の実態を暴くと言うより、 現実と向き合う男の生きざまが織りなす人間模様が力点。 しかし今でも医療周辺では同様のことがありそうだし、 せめてガンが治るようなってくれないと自分の病院嫌いも治らない。 とりあえず映画を楽しみにしてほしいと同時に、 1000年寿命説のオーブリー・デグレイ博士にも乞うご期待!



ダラス・バイヤーズクラブ Dallas Buyers Club (2013) 日本公開2014.2/22
監督 ジャン=マルク・ヴァレ  公式サイト・予告 象のロケット
マシュー・マコノヒー ジャレッド・レト ジェニファー・ガーナー