4.29.2012

ずっといっしょにいてほしい 「アウェイクニング」



ホラー連チャン。 。 しかしこちらは正統派のドラマで、 時代も20年代とクラシック。 なのに設定は昨日のPOVと似ている。 幽霊の正体を科学で暴くフローレンス。 きょうも降霊術の現場に忍び込み、 種を暴いては嫌われる。 降霊術に参加した者は信じたかった。 死んだ娘が返ってきたと。 フローレンス自身も心の奥では幽霊を信じたがっていた。 小さい頃に亡くなった両親や戦争で死んだ恋人に会いたいと願って。

そんなとき全寮制の男子校から、 夜な夜な現れ、 子どもたちを恐がらせる幽霊を暴いてくれとの依頼。 訪れた学校はどこか懐かしい場所だった。 かつては個人宅で、 何か不幸があったらしく、 その後 売却されて学校となった。 フローレンスが訪れて数日で表面的な事実は暴かれる。 しかしその直後に、 あらたな真実が表れる。 大きなドンデン返しとともに失われていた記憶が目覚め、 傍らにいる少年はすでにこの世にいないことがわかる。 孤独な者だけがその姿を見る彼らは、 彼女をそちら側に連れて行くことを望んでいた・・。

フェイクなホラーが量産される一方で、 こうした しっとりとした?ホラーもいいものではあるが微妙に物足りない^ ^ 長身のレベッカ・ホールは魅力的だったが、 アップでの歯並びの悪さにイギリス人を再確認。 アメリカだったら小さい頃に矯正させられたことだろう。 文芸ものさながらの風景は美しいが、 良くも悪くもオーセンティックすぎるイギリス産の新作ホラーだった。



アウェイクニング THE AWAKENING (2011イギリス) 日本公開2012.7/28
監督 ニック・マーフィー 
レベッカ・ホール ドミニク・ウェスト イメルダ・スタウントン 

激しい夜と翌朝の朝食のテーブル Apartment 143



ゴールデンウィークというものが始まっているらしいが、 こちらはあいかわらずのホラー三昧。 しかもまたしてもフェイクドキュメンタリー。 どこかのマジメな映画サイトではこれをPOVと呼んでいたが、 そんな高尚なものではなく、 あくまでもドキュメンタリーに擬態したリアリティ追求の技法と言える。 しかしここまで溢れてくると、 後発は進化・洗練を余儀なくされ、 意外によくできているものに出会うことの多い昨今、 本作もカメラの埃などもそのまま、 ラフに撮っているように見せかけて、 かなりの洗練が見受けられる。 むしろPOVと呼んでもよさそうなニューカマーだ。

スペイン製作ではあるがオリジナル言語は英語で、 スペインは 「REC」 以降 ホラーで躍進中だが、 このあたりはマーケットとの関係がリアルに見え隠れする。 その昔、 イタリア製のホラーの多くが英語だったように。

学者風のオヤジと男女、 計3名の微妙なチームが古いアパートにやってくる。 ここでの霊現象を解明するためらしい。 面白いのは、 このウサンくさいはずの3名様が妙にプロフェッショナルで、 どんな場面にも冷静に対処すること。 基本的には科学的なスタンスで、 ここで起こるポルターガイスト現象の解明に努める。 こんな現象は初めてだ、 とか言いながら、 百戦錬磨の手慣れた態度で解明のステップを進めてゆく。 途中で持ち出される除霊機械?にはなぜかモザイクがかかっている。

この家の住人は父親、 4才の少年、 そして反抗期のティーンエージャー娘とこちらも3名。 奥さんは病気でなくなったらしく、 霊は彼女ではないかと推測されている。 科学班が到着するや否や、 不思議な物音、 心霊映像などの霊現象が頻発する。 しかし核心には到達できず、 何か隠されている秘密があるのではないかとチームは父親を問いただす。 素晴らしい女性だったと話していた奥さんとは実は離婚しており、 彼女の死に至る経緯にはイビツなものがあったようだ。

状況に行き詰まった科学班は、 気分転換のつもりで霊能者を呼ぶ。 しかし、 お前は誰だ?との呼びかけに答えたのは霊能者ではなく、十代の娘だった。 降霊を受けた娘は異様な形相で父を投げ飛ばし、 アパートを壊すまでの異常な力を見せるが、 ふと監視カメラを見ると娘は自室で眠っている・・。 そして翌朝、 昨夜の激しいポルターガイスト現象の余韻を引きづりながらも6人は言葉少なく朝食のテーブルを囲む。 このあたりの微妙なユーモアセンスも悪くない。

反抗期の娘が引き起こす心理的な現象?として調査を終えた科学班だったが、 全室のカメラを撤去したあとに何かが起こる・・。 この路線はいま稼ぎ頭だし、 じゅうぶんによくできた作品なので日本公開もありうるだろう。 6月には 「グレイヴ・エンカウンターズ」 公開を控え、 この夏はフェイクドキュメンタリーあるいはPOVのオンパレードになるかもしれない。 乞うご期待。 。




Apartment 143/Emergo (2011スペイン) 日本公開未定 
監督 カルレス・トレンス 脚本 ロドリゴ・コルテス 
マイケル・オキーフ カイ・レノックス フィオナ・グラスコット 
ジーア・マンテーニャ

4.27.2012

高値の花 「マネーボール」



雨の日の昼間にノンビリしているのも久しぶりな気がして、 なぜか野球映画でも見たくなった。 しかしこれはスポ根ではなく、 データ野球、 あるいはID野球などとも言われてたっけ。 この物語のアスレチックスやレッドソックスが90年代初頭ということは、 ちょうどヤクルトの野村監督が注目されていたのと同時期。 さまざまな先入観での評価を切り捨てて、 シビアに結果を求める、 タイトル通りの経済野球でもある。

それ以上に興味を引くのが、 貧乏球団オークランド・アスレチックスのGMであるビリー・ジーンじゃなかったビリー・ビーンは、 かつては野球選手としての未来を嘱望され、 大学進学をあきらめて高値で球界に買い上げられた男ということ。 だが鳴り物入りで登場しながら活躍できず早期に引退した負け犬でもあった。 映画というのはなぜか負け犬にフォーカスしてしまう。

負け犬はそれでも勝ちたいと思い続け、 球界の古い体質を破る経営を持ち込む。 過小評価されている選手をリーズナブルに買い取り、 眠っている可能性を引き出す。 低予算で優勝できるチームを作る。 まさに投資のようなスタイルで、 さまざまな軋轢を受けながらも球界に旋風を起こす。 しかしまた優勝を目の前にすると呪いがかかったりする。

ビリーの方法論は評価され、 GMとしては最高値でレッドソックスから声がかかるが、 負け犬の傷はなかなか癒えない。 それを受けることはかつての失敗と同じであり、 自分が反旗を翻した球界の古いやり方に再び飲み込まれることだからだ。 そんな彼の心を映すかのように、 ビリーの娘が歌う歌がいい。

♪ 私は小さな女の子 道に迷っている 
人生は迷路 恋は謎 
どっちへ進めばいいの 
わからないわ 




マネーボール Moneyball (2011) 日本公開2011.11 公式サイト 象のロケット 
監督 ベネット・ミラー 
ブラッド・ピット ジョナ・ヒル フィリップ・シーモア・ホフマン 

4.26.2012

魚が降る日 「ワンダフル・ワールド」



数年前の作品ながら日本公開の噂もなければスルーもされない この '素晴らしき世界'。 マシュー・ブロデリックという人の泣きそうな顔がいい。 マシューという名前の人はやはりマシューなんだなと思う。 。

マシュー (役名はベン) はギターが好きで、 その昔子ども向けのレコードを1枚出したが売れず、 現在は校正マンをしている。 離婚して小学生の娘と週末に会う暮らし。 セネガル人の男イブとルームシェアをしている。 イブはゲーム理論の話などを持ち出しながら相手を混乱させチェスに勝つ。

淡々とした日々は長くは続かず、 イブは持病の糖尿病で意識不明となる。 クルマはタイミング悪くレッカーされ、 病院への搬送が遅れる。 のちにマシューは市を訴えるが、 結果は泣き寝入り。 セネガルからイブの姉 (or 妹) が訪ねてくる。 その微妙な異文化感にマシューは恋に落ちるが、 ナイキの靴を買い占める彼女をグリーンカード狙いと勘ぐる。 彼女がセネガルに戻ってすぐにイブは死ぬ。

一晩だけ昏睡から覚めて話すイブ。 昏睡に落ちてる気分は、 ずっと子どもに会えないでいるような感じだ。 帰って来れた。 懐かしい。 あのクルマの騒音も、 犬の鳴き声も・・。 イブの遺骨を届けるためにセネガルに降り立ったマシュー。 突然の雨、 それはイブの話していた魚が降ってくる雨だった。 彼の中で何かが洗い流され、 帰国後は子どもたちのため、 そして自分のために今一度ギターを手にしてステージに立つマシューだった・・

泣ける~ とか、 突き動かされるものはないが、 とつとつとして悪くない味わい。 'ワンダフル' とは、 "素晴らしい" なんて訳さずに "不思議がいっぱい" でいいんじゃないか。 そういう意味で世界はまだまだワンダフルなんだと思わせてくれる作品。 いつかどこかで乞うご期待。



ワンダフル・ワールド(原題) (2009アメリカ・ドイツ) 日本公開未定
WONDERFUL WORLD 監督 ジョシュア・ゴールディン 
マシュー・ブロデリック サナ・レイサン マイケル・ケネス・ウィリアムズ 

4.16.2012

大草原の小さな地下室 「テイク・シェルター」



シェルターには甘い響きがあると思う。 子どもの頃の秘密基地のように。 しかしそれが実践向きかというと、 しょせんは 'ごっこ' あるいはプラシーボ効果しかないのも事実だろう。 世の中を見渡すと、 そんなシェルターがあふれている気がしてならない。 成分表示、 賞味期限表示・・ 保険も保証書も常識も。 映画もある種、 心のシェルターでしかないのかもしれない。

アメリカの田舎町。 広々とした大地が広がっているが、 男は黒い雲を見てしまう。 嵐の予感は、 男に借金してまで地下シェルターを作らせる。 みなに哀れんだ目で見られ、 男の母は彼が子どもの頃、 精神病と診断されているので自分もそうなのかと考える。 やはり専門医に見てもらって治療を、 と思った矢先、 本当に黒い雲が・・。

カンヌで批評家賞、 その他インディペンデント・スピリット賞などを取って話題になっていなければ、 さらーっとDVDスルーされそうな静かな作品。 最近はVFXも廉価になってきたのか、 渦巻く雲や異常な飛び方の鳥は象徴的なビジュアルになっている。

イザというときは妻子を守りたいと自分なども思うが、 本当のところ何ができるのだろうと不安になることもなくはない。 それでも楽天家の自分には縁遠い、 備えあっても憂いあり?な映画か。


テイク・シェルター TAKE SHELTER (2011) 3/24~ 公式サイト・予告 象のロケット
脚本・監督 ジェフ・ニコルズ 
マイケル・シャノン ジェシカ・チャスティン 

4.14.2012

生きて春を・・ 「一命」



遅れ書きとなってDVDで見たが、 あえて3Dで見てみたかった気もする。 時代劇を3D、 三池崇史と坂本龍一・・ さまざまな "え?" が詰まってて、 さすがだなと思う^ ^ 詳しくは知らなかったが、 市川海老蔵は凄いね。 ロバート・ダウニー・Jrに似てる気がしなくもないが、 まあそういうことではなくて^ ^ 表情から立ち回りまで、 こんな人がいたんだ。 よく引っ張ってきたなと。 ベタな言い方をすると、 三船敏郎、 仲代達矢にも匹敵する存在感。

そしてあたらためて原作がいいなと思う。 時代劇は詳しくないのだが、 こんな武士道へのアンチテーゼがあったのか。 とにかくノリに乗ってる三池監督、 次の 「愛と誠」 はそこそこ詳しいはずだが、 本当にさまざまな企画が彼の回りに集まってきて、 苦手な時代劇も身近にしてくれる。 「切腹」 (1962) も機会があれば見てみたいと思う。

いい、 いいと書くだけになってしまうが、 しいて言うなら最後の乱闘シーンが微妙につまらなかった。 中途半端なアガキがよくなったかな。 竹の刀で何十人も相手にするなら、 大見得切って飛び込んでいって、 すぐさま竹光ごとバッサリ斬られるとか。 アガキ続けるなら、 相手の剣を奪ってけっきょく全員斬ってしまうとか。 そうすると笑いの方に行ってしまうかもしれないが、 そこは監督の力でグッとシリアスに引き寄せてもらうとして。

"ただ生きて 春を待ってただけ" ・・ か。 。 (そして3Dの雪)



一命 HARA-KIRI: Death of a Samurai (2011日本) 公式サイト 象のロケット 
監督 三池崇史 音楽 坂本龍一 原作 滝口康彦 
市川海老蔵 瑛太 満島ひかり 青木崇高 新井浩文 波岡一喜 
中村梅雀 竹中直人 役所広司 

4.12.2012

選択しないという選択・・ 「ミスター・ノーバディ」



本日は見逃したものをDVDで。 評判は聞いていたが、 何となく独りよがりの、 映像表現だけの作品かなと思って忘れていた。 半分はその通りだったが、 あと半分は、 予想外に印象に残りそうな作品だった。 何かを選択するということは他方を捨てるということでもあり、 もしもあの時こうだったら、 というのはやはり映画的なテーマに違いない。 寡作な監督とのことで、 前作も見てはいるようだが記憶にない。 恐らくは監督自身、 選択のできない人なのではないかという気がして共感を覚える。

人の命が永遠となった近未来、 最後のモータル (死ぬ人) となったニモ。 その死に際は全世界に中継されている。 ニモは医師の催眠術で、 あるいは飛び込んできたジャーナリストの問いに答えて過去を振り返るが、 物語はまるでパラレルワールドのようだった。 離婚を決めた両親に、 列車の出発間際に聞かれる。 さあ、 どっちについてくるの?

初恋の女の子、 他にも気になる女の子。 彼女と結婚していたら、 あるいは彼女だったら。 その帰結が平行線のまま語られる。 そして恐らく自分はすでに事故で死んでいる。 では、 ここにいるのは誰なのか? ・・誰でもないのだ。 この世界自体が、 少年だった自分の想像の世界にすぎないのだ。 そしてビッグバンの反対であるビッグクランチによって、 時間は逆行する。 ざまあ見やがれとばかりに。

そんな哲学的なストーリーが斬新な映像表現と音楽で描かれる。 「ベンジャミン・バトン」 や 「ツリー・オブ・ライフ」 とオーバーラップする部分もあるが、 もっとわかりやすいのとも言えるのが取り柄か。 以下、 自分的にグッと来たのはこんなセリフ (意訳) ・・

人間が死んでいた頃の世界? ・・空気を汚す車が走り、 みなタバコを吸い、 肉を食った。 毎日は、 フランス映画のように大して何も起こらず。 人間的生殖行動もバンバンやっておったよ。ハハハハ・・ お前に私はどう見える? 頭のおかしくなったジジイか? ごちゃまぜの記憶喪失者か? 日々の糧にあくせくと働いた男か? それは私じゃない。 私は・・ 半ズボンをはいた9才の少年だ。 列車より速く走り、 背中の痛みもない。 15才の青年でもある。 恋する15才の・・




ミスター・ノーバディ (2009フランス・ドイツ・ベルギー・カナダ) 日本公開2011 
Mr.NOBODY 監督・音楽 ジャコ・ヴァン・ドルマル  象のロケット 
ジャレッド・レト ダイアン・クルーガー サラ・ポーリー トビー・レグボ 
リス・エヴァンス ナターシャ・リトル