2.26.2012

ハートが鍵 「ヒューゴの不思議な発明」



先日のウディ・アレンといい、 NYを代表する大御所は、 老いてもなお精力的、 かつ収まっていない。 かつては 「タクシードライバー」 などアブナイ映画の第一人者だったスコセッシ監督がファンタジーで、 しかも3D。 そういえば 「アリスの恋」 もスコセッシ監督だったことを思い出し、 本作でもあらためて監督の映画愛の深さを知って予想以上の感銘を受けた。 製作にはジョニー・デップも加わっている。

3Dについては控えめな使い方だとか、 初めての芸術的な用法などと評されているが、 本編中に登場する世界初の映画である "列車" 同様に新しいマジックとして、 監督は好意的に捉えていたのだろう。 「月世界旅行」 (1902) のジョルジュ・メリエスへのフォーカスの当たり方にも関心を持てた。

そう書いてみても、 あちこちでの評価をなぞる程度にしかならないが、 最後のクレジット、 人形のアップから大林宣彦風のレトロなテロップに変わり、 そこに Directed by Martin Scorseseと出たとき、 監督のいたずらっぽいドヤ顔がくっきり見えたようで、 よし自分も何か意外なことをやってやろうじゃないか的な気分を確かに受け取った。 そういう意味でも素敵な作品。 キャスティングもなかなかいい。



ヒューゴの不思議な発明 HUGO (2011) 日本公開2012.3/1
監督 マーチン・スコセッシ  公式サイト・予告 象のロケット 
脚本 ジョン・ローガン 原作 ブライアン・セルズニック 
ベン・キングズレー エイサ・バターフィールド クロエ・モレッツ 
サシャ・バロン・コーエン エミリー・モーティマー ヘレン・マックロリー 
ジュード・ロウ クリストファー・リー

2.24.2012

パリで死にたい 「ミッドナイト・イン・パリ」



パリが舞台なのにフランスは資本参加せず、 ウディ・アレン作品で最大の全米ヒットとなった本作だが、 噂に違わず素敵な作品だったのでレポート。 見るまではウディ爺さん、 この年になって またスノッブなことでも延々と語られるのかなと食傷気味だった。 だがシンプルな発想とわかりやすい帰結のある、 映画らしい映画だった。

パリは一度しか行ったことがないが、 それでもドゴール空港に降り立った瞬間から "パリの空の下" が頭のなかに鳴り響くほど特別な感覚があった。 実際のパリは、 いつもどこか寂しさの漂う街だったが、 オーウェン・ウィルソン演じるギルもそんな憧れを持ってパリに来る。

作家志望の彼が夢見るのは、 コクトーをはじめ さまざまな芸術家たちが集った1920年代のパリのカフェ。 しかし彼を取り巻く現実は、 美しいが現実的なフィアンセと食いぶちである映画のシナリオの仕事。 パリの散策もままならない彼は、 一人真夜中のパリで道に迷う。

すると暗い道をヴィンテージな車がやって来て、 乗れと言う。 案内されたカフェは妙にクラシックで、 ピアノを弾いて歌っている男はコール・ポーターにそっくり。 そうこうして知り合った男はスコット・フィッツジェラルドと名乗る。 別の店ではヘミングウェイが登場し、 さらにピカソ、 T・S・エリオット、 そしてサルバドール・ダリ、 ルイス・ブニュエル、 マン・レイまでが。

どうやら憧れが時空を歪め、 あの車とともにタイムスリップしてしまったようだ。 ヘミングウェイに出版関係者を紹介するからと言われ、 急いでホテルに原稿を取りに行ったギル。 カフェに戻ったつもりが、 そこはコインランドリーであり、 そうして夜は明ける。

しかしタイムスリップは真夜中の鐘とともに再び訪れ、 彼の作品はサイエンス・フィクションのようだが変わっていて面白いと評され、 そしてピカソのモデルであったアドリアーナに恋する。 彼女もまたこの時代をつまらないと言い、 ベル・エポックこそが本当のパリと語る。 彼女とパリの街を散歩すると今度はベル・エポックに迷い込んでしまう。 そこで出会ったゴーギャンやマチスはまた、 この時代はつまらない、 やはりルネッサンスだと、 前の時代への憧れを隠さない。

ようするに人はいつも自分の時代、 あるいは自分自身に満足できず、 別の時代を生きる自分を想像したり、 別の自分になりすましたりするのが得意な生き物なのだ。 そういう理解を得て ひとおとり古き良きパリを巡り歩いた彼は、 いま一度、 自分の時代を、 自分の人生をせいいっぱい生きるのも悪くないかと思い始める。 そして雨のパリ・・

名だたる作家、 芸術家たちは既知の事柄を元に戯画化されているにもかかわらず、 その時代に迷い込んだ興奮が伝わり、 ウディ・アレン劇としてのギャグも随所に過不足なく冴えて、 かつ、 いつも以上にロマンチックなこの作品は各映画賞でも正統な評価を得て幸せいっぱいのことだろう。 はたして日本ではどのような評価となるか。 乞うご期待。




ミッドナイト・イン・パリ (2011スペイン・アメリカ) 日本公開2012.5/26
Midnight in Paris 監督 ウディ・アレン  公式サイト 象のロケット 
オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス マリオン・コティヤール 
アリソン・ピル レア・セドゥ カーラ・ブルーニ エイドリアン・ブロディ 
コリー・ストール キャシー・ベイツ 

2.19.2012

この砂が全部メルティキッスなら I Melt with You



先日、 早めの日本版DVDがリリースされた 「コンテイジョン」 と続けざまに見たら、 Day 1, Day 2・・ な構成が奇遇にも同じで、 あちらも面白かったがあえてエントリーはせず、 ディープなトレーラーが気になって見てみたこちらの新作について書くことにする。 文字間の間延びしたテロップは本編の導入部にも使われ、 そんな雰囲気を破って突然 SEX PISTOLSの Pretty Vacantがかかる。 海辺のコテージに中年男4人が集い、 酒とドラッグの同窓会が始まるらしい。

一人は詐欺疑惑が問題となる金融関係者、 一人はドラッグの調達役でもある医者、 一人は小学校の英語教師、 そしてもう一人の職業は忘れたが別れた奥さんに未練タラタラの男。 4人は高校時代の同級生で、 誰一人として当時思い描いた人生を歩んではいなかった。

それでもバカ騒ぎは連日続き、 バーの女の子をナンパしたはいいが若いボーイフレンドたちまでついてきてしまい、 その中の小説家志望の青年は彼女からも未来を嘱望されている。 が、 そのことが英語教師に若かりし頃の自分を思い出させ、 過ぎ去った25年に思いを馳せさせる。

翌朝、 中年男の一人が自殺しているのを発見し、 同窓生たちはここに集った意味を思い出す。 それは "25年後に思い描いた人生を歩んでいなかったら、 そこでやめにしよう" という若き日の誓いであった。 ショボくれながらも脂ぎった中年男たちは、 まさか、 そんな若気の至りを本当に実行するとは思わず、 笑って済ませたい気分だったがシリアスな事実にそれも許されず、 その場に長くいればいるほど誓いを守ることだけが唯一、 最後に自分が成し遂げられる偉業だと思うようになる。

やや演劇っぽい趣向のドラマで、 身につまされる内容ではあるが、 けっきょく中年版 「自殺サークル」 あるいは自虐型 「午後の曳航」 という印象で終わる。 しかしながらIMDbでは賛否両論ながら一定の賞賛は得ているし、 悩み多き中年男諸君なら見て損はないだろう。 得るものがあるとも限らないが。 。 使用曲は以下の通り。

Big Dipper – All Going Out Together
Galaxie 500 – Blue Thunder
Julian Plenti – Skyscraper
Filter – Hey Man, Nice Shot
Funkadelic – Maggot Brain
The Specials – Do The Dog
The Jesus and Mary Chain – Just Like Honey
Love And Rockets – Kundalini Express
The Pixies – Caribou
Bauhaus – All We Ever Wanted Was Everything
Modern English – I Melt With You
Adam and the Ants – Dog Eat Dog
Deep Six – The Lawn
Tomandandy – Here




I Melt with You (2011) 日本公開未定 
監督 マーク・ペリントン 
トーマス・ジェーン ジェレミー・ピヴェン ロブ・ロウ クリスチャン・マッケイ
カーラ・グギーノ アリエル・ケベル サーシャ・グレイ トム・バウアー 

2.10.2012

シロイモリ Wrong Turn 4



このシリーズ、 意外と続くね。 '道を間違った' ために大変な目にあうというタイトルだけを継承してるようなものだが、 オリジナルビデオとなった未見の前作のビギニングという設定で、 いちおう劇場公開されているようだ。 とくに見る気もなかったのにトレーラーが強烈だったので、 つい。

フリーク3人組の主食は人肉、 おまけに人の痛みを知り得ない無痛症。 しかし頭は良くて、 隔離されていた病院を地獄へと変える。 そのままそこを住処として、 恐らくは病院のスタッフや他の患者を食べて何年も生き長らえていたらしい。 そんなこともつゆ知らず スノーモービルで雪の森をエンジョイしていたグループが、 道を間違ってこの廃院にたどり着く。

今回のネタとしては有刺鉄線による首つりや切断、 生きたまま三枚下ろし 'フォンデュ' などがあり、 白い雪と赤い血のコントラストなども多少計算しながらコミカルにまとめている?

まあ恐らくは "クライモリ4 デッド・ビギニング" などという邦題になって、 そのうちスルーされることと思われるが、 どうせなら道を間違えずに他のタイトルを手に取ってムダな時間を過ごさないことだ^ ^

(追記 2012.10/26) も出たよ^ ^



クライモリ4 デッド・ビギニング・・たぶん
Wrong Turn 4: Bloody Beginnings (2011ホラー) 日本公開未定
監督 デクラン・オブライエン 

2.07.2012

乗り換え注意 「デビル・インサイド」



1月に全米公開されたところの話題のホラーフィルム、 さっそく見てしまったのでレポート。 事実に基づく、 とポスターには書かれ、 バチカンには承認されていない、 とのテロップで始まる本編は紛れもなくフェイクであるはず。 しかしここまで徹底してドキュメンタリー風に作り込まれると、 ダマされてみようかという気になる。 ネタはもろ、 エクソシズム^ ^

20年前の惨殺事件の記録映像から始まる。 その事件を引き起こしたのは、 イザベラの母親。 母は、 彼女が幼い頃に突然おかしくなり、 その後すぐ父は死に、 事件はエクソシズムの最中に起きたとされる。 母は現在もイタリアの病院に入っている。 イザベラは思い立って母を訪ねて三千里、 イタリアへ飛ぶ。

イザベラ役の彼女は誰かに似ているなと思い、 必死に思い出したところ浅茅陽子さんであった^ ^ 浅茅さん似の彼女はイタリアで神父とコンタクトを取り、 これが真に悪魔憑きなのかを見極める。 ビデオに収められた母は複数の音声を発していた。 これは "multiple demonic possession" と呼ばれる、 複数の悪魔が取り憑いた現象であるという。 さらにこの場合に恐れられるのは transfer、 つまり '乗り換え' だと。

悪魔払いの最中に神父の一人がおかしくなる。 続いて彼女自身、 最後には移動中の車を運転するカメラマン・・ 画面はブラックアウトし、 事件は未解決とのテロップで幕。

唇に刻まれた十字架、 折れ曲がる背骨など、 名作 「エクソシスト」 (1973) を思い出させる悪魔憑き現象に忠実な表現、 プラス徹底したドキュメンタリータッチの迫力、 その他のディテールもかなり不気味。 第二の 「パラノーマル・アクティビティ」 を予感させるヒットだそうだ。

これはイベント映画として みんなで盛り上がって、 ああ面白かったねとすぐに忘れてしまったほうがいいだろう。 でないと transferされそうな。 。




デビル・インサイド The Devil Inside (2012) 日本未公開 
監督 ウィリアム・ブレント・ベル  公式サイト?
フェルナンダ・アンドラーデ サイモン・クォーターマン エヴァン・ヘルムス 
スザンヌ・クロウリー