7.28.2010

情熱と殺意 Resurrecting The Street Walker



本日もドキュメンタリー・タッチの作品。 しかしこれは虚構のドキュメンタリーであり、 ホラーではあるが、 流行りのフェイクドキュメンタリーともちょっと違う。

一人の若いフィルムメーカー。 スピルバーグのように幼少の頃から映画に目覚め、 やがて自分は天才だと確信するようになる。 ロンドンの小さな映像プロダクションに勤めるが、 現実の映画ビジネスのなかでフラストレーションは溜まってゆく。 会社の製作進行の女性は、 天才を小間使いのように扱う名人だが、 彼女は妊娠中で、 お腹は日々大きくなった。

そんなある日、 天才は破棄されたフィルム缶を発見する。 "ストリート・ウォーカー" と題された未編集の白黒フィルムは、 殺人を記録したとされる いわゆる "スナッフムービー" だった。 坊主頭のコワモテの男が映画監督として女に近づき、 映画に出てみないかと誘っては飲み物にクスリを入れる。 縛られて目覚めた女は自らに起こる惨劇をフィルムに収められる。 そういうたぐいの作品の断片だった。 同じ手で数人の女が殺されているかに見える。 ある者はハンマーで頭をつぶされ、 ある者はドリルで腹をえぐられ・・

天才はこのリアリティに圧倒され、 取り憑かれる。 映画への情熱と野心は、 この映画を完成させることこそが自分の使命だとささやく。 プロデューサーに話すが相手にされず、 他の誰からも出資は得られず、 情熱は暗礁に乗り上げる。 やがて悪夢を忘れ去ったかのように業務をこなす天才であったが、 そう簡単にあきらめたわけではなかった。

あるとき再び "ストリート・ウォーカー" 蘇生の企画を よりビジネスライクに切り出し、 部分的な出資を取り付ける。 残りは自腹さ、 とオーディションを開始、 坊主頭の男に似た役者とフィルムに登場する一人の女に似た女優を選定する。 しかし さっそく開始した撮影中に火事が起きる。 製作は中断、 そして天才は姿を消し、 製作進行の女性も行方不明となった。

その後、 天才から手紙とDVDが届く。 やあみんな ご機嫌いかが? との短いメッセージとともに同封されたDVDを再生した面々は驚いた。 そこには頭を坊主にした天才が見覚えのある女を縛り付け、 ドリルで・・ ここで ぎりぎりネタバレストップ^ ^ でもまあ、 文脈を追ってもらえば想像はつくだろうね。 。

スナッフムービーに取り憑かれた一人のフィルムメーカー、 あるいは ただSの血が目覚めただけの男。 その筋では "珠玉のホラー" と評される作品ながら、 例によって日本公開未定。 ややMの自分にとってはさほど感銘を受ける内容ではなかったが、 劇中の白黒映像や坊主の男は不思議な迫力があったかな。



Resurrecting The Street Walker (2009イギリス) 日本公開未定 
リザレクティング・ストリート・ウォーカー(原題)
脚本・監督 オズギュル・ウヤヌク 

7.26.2010

長身でホットなブロンド娘 talhotblond:



インターネットにまつわる殺人事件を追ったドキュメンタリー作品で、 事実は調べればわかることでもあり、 今日は完全ネタバレで書く。 日本公開はあるのかどうかすらわからないが、 もし見る予定があるならこのエントリーは片眼で流し読みしてほしい^ ^

ドキュメンタリーと言いながら、 殺された若い男が事件を振り返るモノローグで始まる。 その後も死人のナレーションで進行^ ^するが、 これくらいは許される演出か。 タイトルの talhotblond は tall (長身の) hot (ホットな) blond (ブロンド娘) という意味のハンドルネームだ。 勘のいい方はすでにここでお気づきだろう。 これはネカマか、 あるいはオバサンだろうと。

このタルホは本名ジェシー、 自称18才 女子高生。 そしてネットゲームやチャットを通して彼女に幻想を抱いてしまった男が二人。 一人は妻も子もいる中年男、 そしてもう一人は若い男で、 中年男とはリアルでも会社の上司と部下という関係。

中年男はハンドル名 marinesniper (海兵隊スナイパー)、 自称18才。 実際に元海兵隊の男ではあるが、 年齢はかなり詐称している^ ^ チャットでの会話はどんどんエスカレートし、 写真を送ったり、 パンティまで送ってもらう。 写真のジェシーはハンドル名通りのホットでピチピチのブロンドだが、 男は若い頃の写真を送って対応。 そして次の段階では、 スナイパーの父としてタルホにコンタクトを試みる。 息子のトムは死んだ、 生前は世話になった、 うんぬんかんぬん・・

しかし中年男のこのネットアクティビティは妻にバレ、 離婚するとの脅しによって淫行を辞めさせられる。 スケベなオヤジではあるが、 リアルでは娘たちのいい父親だった。 そんな男だからこそ海兵隊スナイパーと名乗り、 愛する君たちを守るために日夜戦っているなどと語る快感は、 しだいに幻想と現実の境界を曖昧にしていった。

タルホはその後、 意図したかのようにスナイパーの部下に接近する。 この若い男にとってジェシーは もろタイプで、 あることないことをまき散らして燃え上がる。 リアルで会った、 やった・・ これを聞いた中年男、 くすぶっていた幻想はふたたび焚きつけられ、 "今度は47才の男として もう一度 友達から始められないか" と。 ジェシーは答えた。 "いいわ。 でもトムを殺さないで。 勇敢な兵士は いつまでもあなたの中で、 私の理想の男性として永遠に生き続けてほしい"

ジェシーに再接近するうちに中年男は、 しだいに若い男が目障りになる。 しかしタルホは計画していたかのように、 ことあるごとに 若い男の話をし、 中年男の嫉妬心を煽る。 ついにある夜、 中年男は会社の駐車場で本当のスナイパーとなる。 若い男を撃ったのだ。 海兵隊時代に使っていた古い銃で。

男は逮捕され20年の刑となるが、 捜査が進むまでタルホが若い娘だと信じて疑わなかった。 しかし彼が恋した相手、 それは46才の、 ジェシーの母親だった。 母親だから娘の写真などはいくらでも入手できるし、 さらには娘に知られないでセクシーショットを隠し撮りしたりする変態ママだったのだ。 中年男は獄中で自殺を企てたり40kg以上も痩せたが、 これを聞いてアホらしくなったという。 アホらしい上に、 相手は自分と同じ病気だったことに苦笑い。

苦笑いで済まないのは殺された若い男の親だが、 ネットを取り締まる法案の制定に動く。 リアル・ジェシーはショックで、 その後 母親とは会ってないとのこと。

こういう事件があると何かとヤリ玉に上げられるインターネットだが、 これは幻想を運ぶメディアにすぎない。 ゲームやマンガが批判されることもあった。 テレビだってアイドルという幻想を量産してきたわけだし、 映画だって。 自分が定義する いい映画とは、 ヤクザ映画のように見た後 映画館を出たら、 思わず肩で風を切って歩いてしまうような映画なのだが、 幻想を現実に作用させるという点では全く同様に危険なウェポンだ。

そう考えると問題は、 欺すのが悪いのか、 欺されるのが悪いのかということになるだろう。 詐欺などでは欺すほうが悪いのだが、 この事件では欺され、 翻弄されてリアルな引き金を引いてしまった男だけが罪に問われた。 まんまと欺したジェシーの母親は当然ながら何の罪にも問われない。 だが娘からはキモがられ、 事件の情報は知れ渡るので今後 生きづらくなることは確かだろう。 しかしこのママはタフというか "インターネットの危険性を訴える本を出版したい" と のたまっているそうだ。

母親は離婚後、 娘と二人暮らしだったのだが、 若い娘を持つ母親にこうした悪意が芽生えることも微妙には理解できる。 そしてそれを誰よりも理解しているのが中年スナイパーなのだ。 この皮肉は何と言っていいのかわからないが、 ジェシーとして母が語った前述のセリフ、 若いトムを永遠に・・ という言葉にすべてが込められている。 このあたりは淡々としたドキュメンタリーながら微妙にぐっと来る。 インターネットにからむ近年の問題でありながら、 失われし若さへの羨望という文学的なテーマが隠されている気がする。

下のトレーラーはティーザー的すぎるが、 これしか見当たらない。 手法としては捜査当局から大量のログを借りて i love u などと書かれたチャットの記録をテキストで追ったり、 関係者へのインタビューが中心なので映像作品としてはやや地味かもしれない。 使われている音楽もサティのジムノペディだったりしてベタだが、 機会があればぜひご覧あれ。 アラフォー、 アラフィには無視できない何かがあるかも。




タルホットブロンド: (原題) talhotblond: (2009) 日本公開未定 
監督 バーバラ・シュローダー 
Talhotblond (Ws Ac3 Dol) [DVD] [Import]インポート [DVD]
Barbara Schroeder

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7.24.2010

浦島タローズ 「脳内ニューヨーク」



忘れていた作品。 2年も経ってしまうと何となくタイムラグを感じるものだ。 フィリップ・シーモア・ホフマン演じる このケイデン・コタードのように。

ケイデンの時間はどんどん おかしくなっていく。 数週間のつもりが気づけば17年、 小さかった娘はすでに大人になり、 それどころか自分より早くこの世を去ろうとしている。 人生は失望と悲劇。 特別だと思っていた自分はすでに壊れかけの老体で、 未だ何事をも成し遂げず。 地上にごまんといるそんな人間の一人に過ぎないのに、 そのくせ孤独だけが自分を覆い尽くす。

ちょっとダラダラとした自己投影の物語。 それなりに共感もあるしディテールも面白いのだが、 どこかで聞いたような話だなとも思った。 そうだ、 浦島太郎・・ しかしこの浦島太郎は実はそれほど孤独ではない。 "この世界に何十億といるキャスト しかし誰一人としてエキストラではない みな自分という人生の主役なのだ" そんなセリフ通りに老いと死を共有していくのだから。

今回カウフマンは脚本だけでなく初監督ということで、 力作ではあるが浦島太郎ほどショッキングにはならず。 まったりと、 わびしさを噛みしめるだけの作品となっている。 '脳内' という邦題とともに日本ウケを狙ったポスター (下DVDジャケ) だけが、 やはり かなりズレている。 ビジュアル自体はポップで悪くないが、 海外の他のポスター (上、下1・2) と見比べると別の映画にも思える。 あんまりガチガチに統一するのもつまらないだろうけど、 果たしてこの日本独自のポスターをカウフマンは見たのだろうか。 見たならどう思ったのだろう。 次回作にそんなエピソードが出てきたりしたら楽しいのだが。 。



脳内ニューヨーク Synecdoche, New York (2008) 日本公開2009 
脚本・監督 チャーリー・カウフマン  公式サイト 象のロケット 
フィリップ・シーモア・ホフマン サマンサ・モートン 
ミシェル・ウィリアムズ キャサリン・キーナー トム・ヌーナン 
脳内ニューヨーク [DVD][DVD]

抱擁のかけら [DVD] (500)日のサマー [DVD] バッド・ルーテナント [DVD] マイレージ、マイライフ [DVD] 渇き [DVD]

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7.22.2010

睡魔のほうが恐い.. 「プレデターズ」



ロドリゲスおじさんが入れ込んでいる様子で、 もしかして期待できるかもと思ったのも束の間、 どっと睡魔に襲われた。 キャスティングや方向付けにおじさんのセンスが出ているのかもしれないが、 どのキャラも生かし切れず、 プレデターVS刀も不発気味。

光学迷彩って、 1987年のシュワルツェネッガーのオリジナル版あたりが出始めなんだろうな、 でも さすがに今さら驚けないし、 他に新しい驚きもなかった。 中途半端にヒューマニズムに持って行こうとすると余計に浅さが際立つし、 それより何より肝心のプレデターが恐くない。 リメイク企画もそろそろ限界かもしれない。 NGスレスレ、 というかNGのタグを打つのも めんどくさい^ ^ ここのところ日本公開が遅れない作品が続くが、 そういうものほどつまらない現状。 。


プレデターズ Predators (2010) 7/10~ 公式サイト・予告 象のロケット 
製作 ロバート・ロドリゲス 監督 ニムロッド・アーントル 
エイドリアン・ブロディ アリシー・ブラガ ダニー・トレホ トファー・グレイス 
ローレンス・フィッシュバーン ルーイ・オザワ・チャンチェン 

7.21.2010

マートルビーチク? 「ホテルチェルシー」



ホラーということだったが、 普通これをホラーとは言わないだろう。 犯人捜し、 サスペンス・・ 実際に音楽の使い方がベタなせいもあって、 テレビ物のサスペンス劇場のようだ。 それでも何か映画的なテーマがあるならまだしも、 新婚旅行での殺人事件を適当にでっち上げておきながら、 犯人は実はこうでしたと謎解きしているだけ。 しかも事実のくだりはパパッと見せるだけでよくわからない^ ^

ハリケンブルーの頃から、 いつも何となく気になる長澤奈央。 せっかく主演をもらっても、 味けのない役・・ 今回、 意外に巨乳なんだなと思ったくらいで (と言ってもヌードはないよ) 彼女の個性はあまり生きていない。 マートルビーチ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞とのことだが、 聞いたことない映画祭だな^ ^

長澤の夫役を演じるヒロ・マスダという人がシナリオを書き、 製作を行った低予算インディーズ作品。 サンダンスをはじめインディーズ系には甘い当ブログも、 これはNGだ。 低予算ながらデジタルカメラを使ったり映像にはこだわりましたってことだが、 何かが違う。 映画を作るって大変だろうし、 さまざまな思いがあったはずなのに、 ここには何もないように感じる。 どういうことだろう。 何となく作ってみました、 なんてことはあり得ないと思うが、 それにしては観客の不在が色濃い。 いったい誰に見せたい映画なのだろう。

長澤奈央主演のホラー、 タイトルにも何かありそうと感じて見たわけだが、 すべて裏切られ、 1時間14分しかないのに非常に長く感じたことだけは確か。 せっかく見たのにあまり悪く書きたくはない。 でもワンポイントも拾えるところがなかった。 誰か、 ここが面白いんだよというところがあったら教えてほしい。 。 エントリーしなくてもよかったが、 あえて [NG] として堂々のエントリー・・


ホテルチェルシー Hotel Chelsea (2010日本・アメリカ) 公式サイト 
脚本・製作・出演 ヒロ・マスダ 監督 ホルヘ・バルデス=イガ 
長澤奈央 鈴木砂羽 ダニエル・ウィルキンソン 
アンソニー・ローレン ジャスティン・モーク 
ホテルチェルシー [DVD][DVD]

戦闘少女 血の鉄仮面伝説 [DVD] 板尾創路の脱獄王[DVD] (仮)ムラサキカガミ [DVD] 女たちは二度遊ぶ [DVD] 失恋殺人 [DVD]

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7.20.2010

空気は読まずに曲げろ^ ^ 「エアベンダー」



隔年で新作を送り出してくれるシャマラン監督だが、 今回は大どんでん返しのオリジナル脚本ではなく、 子供向けのテレビアニメが原作。 情報は娘さんから得たそうで、 60話ほどの長編アニメ作品を今回の実写化では三部作にまとめるらしい。

ハプニング」 のときも評価は低めだったが、 今回はブーイングまで起きているようだ^ ^ だが自分的には楽しめた。 ファンタジー作品には食傷気味なのに、 何だろうね、 拳法の動きがよかったのかな。 。 氣・水・土・火の4つのエレメントごとに、 八卦掌、 太極拳、 洪家拳、 少林拳とスタイルを分けているそうで、 そのすべてを体得した者はアバターとなって霊界とのコミュニケーター、 つまり巫女のような役割を担うことになる。

火の国の野望によって滅ぼされた氣の国の生き残りの少年アンは、 自分に備わった素質から逃げていた。 アバターの素質を持ちながらも逃げていた少年は氣の術しか習得しておらず、 シリーズ1作目となる今回は水の技も会得、 最後のエアベンダーはついに立ち上がる。 アン少年役のノア・リンガーはテコンドーの黒帯ということで、 小さいのにファイティングポーズはめっぽうキマっている。 アニメより '悩むキャラ' になっているそうだが、 そのへんがシャマランらしくもあり、 またブーイングの一因なのだろう。 追放された火の国の王子には姉がいた。 王子も嫉妬する この天才的な火使いシスターが登場するところで to be continued...

これまでとは全く違った作風というか、 ようするにアクション映画だし、 こんなチョイス自体がシャマラン流のどんでん返しか。 しかし何だかんだ言われながらも興業成績はいいようだし、 果たして今後、 娘さんにも気に入ってもらえるような作品に育っていくのか、 密かに楽しみにしたいところではある。 2Dバージョンでの鑑賞。


エアベンダー The Last Airbender (2010) 7/17~ 公式サイト・予告 
監督 M・ナイト・シャマラン  象のロケット 
ノア・リンガー デヴ・パテル ニコラ・ペルツ ジャクソン・ラスボーン 
ショーン・トーブ セイチェル・ガブリエル