8.19.2011

飛行機が落ちてくる日 「籠の中の乙女」



カンヌ "ある視点部門賞" 他、 オリーブの葉っぱをたくさん並べている作品。 気になるような、 ならないような雰囲気ではあるが、 スチールはそのへんのホラーより不気味なので、 一歩引いて いくつかあるバージョン違いのポスターを並べて、 連鎖するイメージで想像してもらうことにしよう。 想像がつくような、 つかないような不思議なイメージの連鎖だが、 現代版 "恐るべき子供たち" と言えるような、 言えないような、 オリジナリティにあふれる物語ではある。

三人のティーンエージャーが、 家から一歩も出ずに暮らしている。 孤児であるとか、 誘拐されたとか、 あるいは引きこもりというわけではなく、 これは工場を経営する裕福な父親によって作り出された環境であり、 詳しくは語られないが最初の子供を亡くした両親が、 残された子供たちをこの世界のさまざまな危険から遠ざけようと画策した結果らしい。

子供たちはそんな幽閉された環境のなか、 たまたま知り得た外の情報から "ゾンビって何?" と聞くと "それは黄色い小さな花よ" と教えられ、 "ヴァギナって何?" と聞くと "大きなランプのことよ" と。 両親の結婚記念日には "叔父さんの歌" ということになっている "Fly Me to the Moon" のレコードをかけ、 姉妹はピナ・バウシュ的なコンテンポラリー・ダンスを踊る。

永遠に続くかのような気だるい夏の昼下がり、 子供たちはクロロホルムを嗅いでは 'どちらが先に目覚めるか競争' に興じ、 大空を飛ぶ飛行機が庭に落ちてくる日を心待ちにしている。 家を出てゆくことができるのは '犬歯' が抜けたとき、 と教えられている。

そんな環境を作りながらも両親に悪意はなく、 強いパートナーシップで子供を自分たちが思う正しい道に導こうと努め、 子供と過ごす時間を大切にする。 そしてなぜか、 工場の警備員として雇っている女に息子の性教育実習を頼んでいる。 女は目隠しをされて家にやって来て、 家庭教師のようにみんなと仲良く過ごし、 そして息子の部屋へと消えてゆく。

猫は恐ろしい動物であると教えられたため、 庭に迷い込んだ野良猫に過剰反応してしまう子供たち。 隔離政策はいつしか破綻を見せ、 上の娘はダンベルで自らの犬歯を殴りつけ、 夜の庭を横切って外の世界をめざす。

さまざまな 'おいおい' というエピソードで描かれる話題作、 自分的に琴線に触れることはなかったが確かに "ある視点" を感じることはできた。 経済危機が叫ばれるギリシャには、 このようなコンテンツも生まれているのだ。



籠の中の乙女 DOGTOOTH/Kynodontas (2009ギリシャ)
日本公開2012.8月 公式サイト  象のロケット 
監督 ヨルゴス・ランティモス 
クリストス・ステルギオグル 

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